学会テーマ「確固たるダイアベティス理学療法学」
千葉県幕張メッセ・国際会議場にて、JSPTDM (日本糖尿病理学療法学会) とCDEJ認定機構の共同企画により<CDEJシンポジウム>を開催しました。

左から(*以下敬称略)
片田 圭一(理学療法士CDEJ / 石川県立中病院患者総合支援センター)
渡邊 真結(看護師CDEJ / 横須賀共済病院)
相澤 政明(薬剤師CDEJ / ガーデン薬局西口店)
宇都宮一典(医師 / CDEJ認定機構理事長・慈生会野村病院)
井垣 誠(理学療法士CDEJ / JSPTDM理事長・公立豊岡病院組合立豊岡病院)
宮原摩耶子(管理栄養士CDEJ / 自治医科大学附属さいたま医療センター)
清水 康平(臨床検査技師CDEJ / 東邦大学医療センター大森病院)
シンポジウムテーマ
「高齢者糖尿病のケアにおける多職種連携の在り方-拡がるCDEJの役割」
座長
宇都宮 一典(医師)/ 井垣 誠(理学療法士)
演者と演題
1.宇都宮 一典( 医師 / CDEJ認定機構理事長・慈生会野村病院 )
「多様化する糖尿病医療とCDEJの役割」
⇒2型糖尿病は遺伝的な素因を基盤として、膵島におけるインスリン分泌不全と内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗によって発症する。我が国における糖尿病の増加の要因には、食生活の変容に伴った内臓脂肪型肥満があり、インスリン抵抗性が大きく関与している。加えて、患者の高齢化によって、加齢に伴う臓器障害が重なり、多彩な病像を呈するに至っている。糖尿病治療の目的は、合併症の発症・進展阻止と健康寿命の延伸にあることは言うまでもない。そのためには、かかる患者の病態、年齢構成ならびに背景をなす生活習慣の多様性を踏まえ、治療法の個別化が必要である。真の個別化を実践するためには、患者のニーズを的確に把握する専門職としての技量が問われるのである。CDEJの活動の場とその役割は大きく変貌しようとしている。糖尿病をはじめとする慢性疾患の診療は、地域包括ケアシステムの中核に位置付けられ、専門病院から患者宅まで、多様な医療現場に出ていかなければならない。しかも、患者に近づくほど、医師の手から離れ、自身の裁量で決しなければならないことが増えるのである。社会はそれを求めているとも言える。この中にあって、理学療法士CDEJが果たすべき役割は大きい。最近の統計によれば、我が国の外来入院患者に65歳以上の高齢者の占める割合が増え、それとともに在宅医療を受ける患者数が急増している。骨折、脳血管疾患、認知症が要介護に陥る原因疾患にあげられるが、いずれも糖尿病が大きなリスクになっている。糖尿病を併せ持ち、これらの原因からリハビリテーションの対象となる患者は、増加の一途を辿るであろう。理学療法士CDEJには、併存疾患の予防から身体機能の回復まで、幅広い領域での活躍が期待される。一方、そのためには、リハビリテーション専門医と糖尿病専門医間の円滑な連携が必要であり、他の職種にはない事情として考慮しなければならない。CDEJのライセンスは、こうした責務に耐えうることを示す証となるものである。これからの社会的要請に応えることのできるCDEJの育成が、認定機構の使命と考えている。
2.清水 康平( 臨床検査技師CDEJ / 東邦大学医療センター大森病院 )
「高齢者糖尿病のケアにおける多職種連携の在り方―臨床検査技師の立場から」
⇒高齢者糖尿病のケアは、血糖コントロールのみならず、QOLの確保、実現可能なデバイスの選択、認知機能や併存疾患を考慮した包括的なアプローチが求められる。加齢に伴う身体的・認知的変化により、従来型の事療法・運動療法・薬物療法を一律に適用することは困難であり、個々の患者状態に応じたテーラーメイドケアが必要である。臨床検査技師が関与する糖尿病療養指導として最も想起されるのは、SMBG(自己血糖測定)やCGM(持続血糖モニタリング)など血糖コントロール支援である。近年はデバイスの進化により、音声案内やカラー表示など高齢者にも使いやすい機能を有する機器が増加している。単純に「手技不良」「血糖管理不良」と評価するのではなく、その背景にある身体的・認知的要因、生活習慣、性格特性などを把握し、各メーカー機器の特徴を理解したうえで、必要に応じて他機種への変更を提案することも重要である。また、「高齢者=デバイスが使えない」という先入観は避けるべきであり、近年ではスマートウォッチなどを日常的に活用している高齢者も少なくない。患者の生活背景や関心を理解し、より簡便で継続可能な血糖管理方法を共に見つける姿勢が求められる。年相応の認知機能低下に対しては、反復的な指導が記憶定着に有用である。糖尿病教室や診察室での指導に限らず、採血室や生理検査室などでの短時間の1対1のやり取りも有効であり、繰り返しのアドバイスが理解と行動変容を促す。さらに、糖尿病関連検査に限らず、術前検査など他疾患目的で来院した際の短い会話を通じて支援することも、患者理解と継続支援につながる。QOLの維持向上は高齢者糖尿病ケアの根幹であり、検査結果から身体機能を推定し、理学療法士など他職種と連携して運動療法や生活指導へと展開することが、より持続的で効果的な療養支援につながると考えられる。
3.宮原 摩耶子( 管理栄養士CDEJ / 自治医科大学附属さいたま医療センター )
「高齢者糖尿病のケアにおける多職種連携の在り方―管理栄養士の立場から」
⇒高齢者糖尿病においても食事療法は高血糖の是正と脂質異常症と肥満の是正に有用であり、低栄養、過栄養・肥満を評価し、適正なエネルギーを設定し、バランスを図る食事をすることが望ましいとされています。高齢者の低栄養は、体重減少と食事摂取量の減少などから評価法を活用して見出し、意図しない体重減少を認めた場合には、1エネルギー摂取不足、2活動量の増加、3著しい高血糖、4代謝が亢進するような疾患として悪性疾患、感染症、関節リウマチ、甲状腺機能亢進症、歯の問題などが潜んでいないか、精査が必要とされます。高齢者の過栄養を反映する肥満はBMIで判断しますが、高齢者では身長が減少するためにBMIが実際より高値となる場合があること、心不全や腎不全の合併で浮腫をきたしているとBMIで体脂肪を判定することは困難な場合があります。また、高齢者では肥満にサルコペニアが合併したサルコペニア肥満が増える事から、BMI単独による過栄養や肥満の評価は難しい場合が多く、個別に判断する必要があります。糖病におけるフレイルは死亡率や入院といった臨床転帰に加え、糖尿病の合併症に関連するとの報告もあることから、高齢者糖尿病における食事療法はフレイル対策も重要です。フレイルの原因として栄養素の摂取不足があげられます。高齢者糖尿病に栄養素の摂取不足の是正においては、ただ不足する栄養素を示し、食べることを促すだけでは、改善が難しいケースを多く体験します。活動量の低下や消化能力の低下、便秘などが原因による食事摂取量の減少や健康情報や併存疾患の術前の体重・血糖管理を目的とした自己流の食事療法など様々な理由で食事量が減り栄養素の摂取不足に陥ります。また、買い物や調理などの家事の負担や、咀嚼・嚥下能力の低下といったオーラルフレイル、認知機能の低下なども食事摂取量減少に影響して栄養素の摂取不足を引き起こします。個々に応じた栄養管理計画の作成には、高齢者特有の背景に加え、病態、併存疾患、薬物療法、ADL、認知機能、家族や地域のサポートの有無、社会経済的要因など、多職種での情報共有が不可欠です。糖尿病をもつ高齢者が食生活を楽しみ、健康寿命の延伸につながる栄養サポートを実施するにあたり、高齢者糖尿病を支える地域や多施設での多職種連携が進むことを期待したいと考えています。
4.相澤 政明( 薬剤師CDEJ / ガーデン薬局西口店 )
「高齢者糖尿病のケアにおける多職種連携の在り方―薬剤師の立場から」
⇒高齢糖尿病患者では、加齢や糖尿病性腎症に伴う腎機能低下に加え、認知機能の低下、生活リズムの乱れ、偏食や服薬忘れなど、さまざまな生活上の課題を抱えており、治療を継続することが難しい場合がある。また、高血圧や脂質異常症、心血管疾患などの併存症を有することが多く、ポリファーマシー(多剤併用)による服薬管理の複雑化や副作用リスクの増大も問題となっている。薬剤師は薬物療法の安全性を確保するのみならず、他職種と協働しながら高齢者の生活に即した支援を行うことが求められる。【事例1】入院患者、70歳台後半。入院中に使用しているインスリンおよびGLP-1受容体作動薬について薬剤師が確認したところ、患者は注射したことを覚えていなかった。退院後に自己注射を適切に行えるよう、薬剤師・看護師・医師で協議し、内服薬を含めた糖尿病薬の処方内容を見直した。病院薬剤師は電子カルテを介して多職種と情報共有が可能であり、院内での直接的な連携により迅速な対応を行うことができる。【事例2】在宅患者、70歳台前半。訪問看護師と薬局薬剤師が連携して対応した。患者は偏食傾向があり、自己血糖測定が定着しなかったが、訪問した薬剤師が測定データを可視化し、看護師が測定状況を観察・共有することで、食事内容の改善と自己管理意識の向上がみられ、HbA1cが改善した。薬局を訪れる患者の情報は処方せんに限られるため、病院薬剤師のように多職種とリアルタイムで患者情報を共有する仕組みがなく、連携に制約がある。そこで、薬局における多職種連携強化策として、持続血糖測定器Free Styleリブレのデータを薬局薬剤師もWebを介して確認できるようにし、病院やクリニックの医師・看護師・管理栄養士・臨床検査技師・理学療法士と共有する仕組みを提案したい。血糖変動を共通の指標として活用することで、服薬・栄養・検査・運動・生活支援の一体的介入が可能になると考える。高齢糖尿病患者に対するこのような支援体制の構築が進むことを期待している。
5.井垣 誠( 理学療法士CDEJ / JSPTDM理事長・公立豊岡病院組合立豊岡病院 )
「高齢者糖尿病のケアにおける多職種連携の在り方―理学療法士の立場から」
⇒高齢者糖尿病は、加齢に伴う身体機能や認知機能の低下、多疾患併存、社会的孤立などが影響し、血糖マネジメントだけでなくQOLにも大きな影響を与える。したがって、単に薬物療法に依存するのではなく、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカーなどによる多職種連携が求められる。理学療法士は、運動療法を中心に身体機能面から患者の自立支援を担う役割になる。具体的には筋力、バランス機能、運動耐容能などを評価し、個々の身体能力と疾患特性に基づいた安全な運動プログラムを立案する。高齢者では糖尿病合併症の罹患に加え、サルコペニアや骨関節疾患、心疾患などの併存を考慮し、低強度かつ継続可能な運動を中心に指導する必要がある。また、運動実施に対する心理的・社会的要因にも配慮し動機づけ支援や生活環境調整を行う。他職種との連携として、医師とは運動制限や治療方針の共有、看護師とはセルフケア状況や血糖変動への対応を協議する。管理栄養士とは身体活動量と食事摂取量のバランス調整、筋肉量評価を共有しその対策を協議、薬剤師とは薬物療法との相互作用や低血糖リスクへの対応を情報交換する。また、ソーシャルワーカーとは地域での運動機会や支援体制の構築を共同で進める。これらの連携は、カンファレンスや電子カルテを活用した情報共有体制の整備により効果的に行うことができる。理学療法士は単なる運動指導者ではなく、生活全体を見据えた「活動的な生活」の実現を支援することが重要であると考える。転倒予防、歩行能力維持、日常生活動作能力の改善を通じて身体活動量を確保することは、血糖マネジメントおよびQOLの向上に寄与する。運動療法メニューを提示してその実践を促すだけでは上手くいかないことをよく経験する。家屋やその周辺環境も把握し、本人の役割を踏まえて動く必要のある状況を設定することが理想なのかもしれない。高齢者糖尿病のケアにおいて、理学療法士は身体機能と生活支援をつなぐ役割を担う。他職種が専門性を尊重し合い、共通目標のもとでチームとして連携することがより質の高い高齢者糖尿病のケアの実現につながると思われる。
6.渡邊 真結( 看護師CDEJ / 横須賀共済病院 )
「高齢者糖尿病のケアにおける多職種連携の在り方―看護師の立場から」
⇒当院における糖尿病関連の入院内訳は、65歳以上が55%、うち75歳以上が35%と高齢者が半数を占めている。特に近隣からの紹介患者については他疾患の併存も多く内服管理であった方も退院時にはインスリン導入となるケースも少なくない。教育入院のクリティカルパスを活用しているが、教育の側面より、治療を継続するための環境調整が重要な看護のポイントになることも多い。しかし、地域において急性期医療を担う当院の特性上、高齢糖尿病患者へインスリン導入を行っても、退院後はかかりつけ医や他の専門クリニックへの逆紹介が多い現状がある。併存疾患や合併症、病型によっては生涯を通してインスリン治療が必要となる、現在その高齢化が大きな問題となっている。高血糖や低血糖などによる身体的リスクだけでなく、フレイルやサルコペニアといった老年症候群の進行から、在宅でのサポートパーソンの有無、経済状況などの社会背景まで問題は多岐にわたる。高齢糖尿病患者は地域や他施設との協働が欠かせない疾患であることは言うまでもない。しかし病院間もしくは病院と施設、自宅との療養支援の連携には問題や課題も多く、退院後の患者さん支援内容に対し継続して関わることは難しい。今年度、地域連携室との協働により近隣のクリニックや施設、ケアマネジャーなどの在宅サポートの方々と勉強会や事前アンケートを通し困難と思われる事例や事象などの問題を抽出することができた。様々な治療環境の中で本人が出来ること、サポートが必要なことなどを多角的にとらえることが重要であり、「どこで」「誰が」「どのように」「何に気を付ける」など治療を支えていく上で病院と地域の間でもその認識を共有する必要があった。糖尿病では治療の進歩により注射薬や血糖値のモニタリングツールも多様化しており、高齢糖尿病患者に対する包括的な治療支援には、患者本人のセルフケア能力を高めるための支援だけではすでに成立しない現状がある。疾患管理について多職種が共有認識を持ち患者を取り巻く環境の再構築を含め多職種でその専門性を駆使し支援することが求められている。病態や環境の違いを考慮した個別化医療や継続可能な治療の標準化などへ必要性も謳われ始めている。超高齢社会を前に「これから」を見据えた治療・療養環境について病院からも発信し地域と在宅の切れ目のない連携の在り方を考える。

